『すばる』の蓮實重彦の発言を見せてもらったけれど、すごい。
「村上春樹作品は結婚詐欺だ」(そのときだけは調子のいいことを言って読者をその気にさせるが、要するにぼったくり)というのは、批評というよりほとんど罵倒である。
(中略)
私見によれば、村上文学がワールドワイドなポピュラリティを獲得しているのは、それが知的ヒエラルヒーや文壇的因習を超えて、すべての人間の琴線に触れる「根源的な物語」を語っているからである。
他に理由はない。
村上文学は「宇宙論」である。
(中略)
ともあれ、私たちの平凡な日常そのものが宇宙論的なドラマの「現場」なのだということを実感させてくれるからこそ、人々は村上春樹を読むと、少し元気になって、お掃除をしたりアイロンかけをしたり、友だちに電話をしたりするのである。
それはとってもとってもとっても、たいせつなことだと私は思う。
内田樹の研究室