小説をほとんど読まなくなったのに、この人の私小説風の本はいままで、ずっと読んできた。なんということを書いているわけではないのだが、やたら読ませる。
著者風に言えば、ズカズカ読んでいける。
この本は七十年代が終わり、八十年代に入ろうかというところであり、著者が売れっ子作家になっていく過程のちょっと前といったところだろうか。
この時代、新しい雑誌がどんどん発売され、出版業界も活況を呈し始める、そんな時代である。フリーになった著者にも、雑誌、FMラジオ、AMラジオ、果てまたテレビの紀行ものなどの仕事依頼が次々やってくる。あらためて、日本が経済成長をとげ、本・雑誌の発行点数も年ごとにうなぎのぼりのように上昇していく。そんな、幸福な時代であった。
現在では出版不況という言葉を聞かない日はないくらいである。
なにかを表現したい人はネット上で手軽にできるようになり、活字に金を払う
こともなくなっていくのかもしれない。