【山本昌邦備忘語録/NUMBER(573)P73より】

「立ち上がりは組織ではなく身体能力の問題です。最初の20分間は、筋肉中のエネルギーを燃焼させてパワーに変えられるんです。だからパフォーマンスがとても高い。筋肉の量が多いヨーロッパ人や韓国人の方が有利なんです。
その時間帯を過ぎると循環により血液が栄養を運んでエネルギーに変える。こちらは
持久的な能力で、日本人も持っている。」
           (中略)      
「また練習のタイミングも、例えば間に昼寝を三時間とれれば、その間に成長ホルモンが分泌されて身体が超回復して、午後の練習も高いレベルからスタートできる。ところがこの休みを二時間しか与えなかったら、エネルギーが十分補給できていないし、壊れた細胞に栄養が行き渡っていないから、怪我にも繋がりやすい。同じ2度の練習でも、どういうタイミングでやるかによって、午後のパフォーマンスが全然違う。それは長期合宿のいいところでもあって、ノンレム睡眠を2回もってくれば、2回の成長ホルモンの発生が期待できて、食事とトレーニングと休養のバランスがよければ、選手は凄く逞しくなる。」
            (中略)
「例えば暑熱対策ですね。暑熱とは身体の汗腺が開くこと。汗が出やすくなれば、その分内臓に水分を送り込まなければいけない。ところが人間が水分を吸収できる量は、1時間に800mlなんです。だとしたら、
飲み方を間違えればそれは重りにしかならない。ハーフタイムにまとめて飲めばいいというものではないんです。
汗腺は、一回ひらくと1ヶ月ぐらいひらき続けている。急には閉じないんです。だから1週間ほど暑いところで合宿し、3週間後に現地に行けば、リレーのバトンのようにつなげるんです。3日もいれば、寒いところから来てもすぐに馴化される。
逆に暑いところにいればいいと思うでしょうが、それだと今度は内臓が疲れてしまう。夏バテと同じです。」 
(中略)
「アフリカ人は、同じ暑さなのに汗をかかないでしょう。タイ人もそう。なぜならば彼らは汗腺が発達して、細かい汗腺が皮膚の表面にたくさんある。だから汗の気化熱により体温を下げる有効発汗を起こしやすい。対して、日本人は、
汗腺自体が大きく数が少ない。汗が汗のまま流れる無効発汗なので、熱を放出しにくい。だらだら汗が流れるのはもったいないのですが、汗腺がちがうからこの体質は変えられない。汗腺の活動量を増やしていくしかないんです。
予選は一日おきの3連戦で、途中の回復が期待できないから、発熱効果が薄いと筋痙攣が起きる。熱の放出がうまく出来ないと、
頭に熱がこもるので判断力が著しく落ちる。風を引いて熱がある状態と同じでぼーっとしてくるんです。そこで一瞬ふらっとしたらやられてしまう。
みんな戦術論は好きなんですが、それ以前の問題で、ただ単に頭がぼやけてやられただけだということも、実際にはよくあります。」
               (中略)
「アジアの戦いは、ピッチの外の戦いが占めるウェイトが凄く大きい。
どんなにすばらしい戦術をつくっても、それを発揮させてくれないですから。持てる力を出せばいけるという目算があっても、出せるように準備することがなかなか出来ないんです」
               (中略)
「中東では、試合会場のロッカームでクーラーが壊れているなんてザラにあります。
ハーフタイムに上がってきたとき、相手は冷房がガンガンに聞いていて身体の熱をとることができるのに、
こちらは熱のこもったサウナ風呂のなかで、選手が話もきけない。そんな駆け引きをされることもありえる。
 だからこそ先乗りスタッフが、すべてを準備するわけです。部屋がちゃんとしていなかったら、僕らが到着する前の一時間半はもう戦争ですよ。
どうして冷房が壊れているんだ、他の部屋を用意しろと、スタッフは現地の人を相手に戦わなければならない。スタジアムまで行って、そこではじめて不備に気付いても後の祭りなんです。こんなこと、J−リーグでは起こりえないでしょう。
 氷の確保にしてもそう。ホテルに用意してもらうにしても、前の日にこれだけの量といっても、実際に見せて確認させないと駄目。当日に半分しかよういできなかったなんてことになりかねない。
そうならないために、スタッフが揃っている。そうした総合力こそが、
今の日本サッカーの実力なんです」
           (中略)
「例えばバスや飛行機に乗るときも、窓側の席には気をつけろと。飛行機の場合、窓に顔をつけて眠ったら、外はマイナス50度の世界ですからね。どんどん熱が奪われて、着いたときにゴホゴホ咳をしていたら、
もう5日間のUAE予選はお終いなんです。だから、フードつきのスウェットを用意して、熱が逃げないように頭を守る。頭の血管は、身体と異なり急激に収縮しないので、そこから熱が逃げやすいんです」
「それから乗る前に水を1本か2本渡し、チビチビと飲ませるようにする。
乾燥すると血流が悪くなるから回復が遅れるんです。
だけどそれを口で言っているだけで、選手が実際やっていなかったら、
スタッフは零点です。ちゃんと水を飲ませるために、バスに乗るときに必ず選手に1本持たせ、その確認をとる。
それを頭ごなしにするのでなく、さりげない気配りとしておこなう」
              (中略)
「指導者が良く間違えるのは、俺はこれだけの知識があるからと、いろいろなこと
を教えたがることです。
選手は10を消化できるとは限らない。2しか消化できないのに10を言っても、拒否反応を起こすだけですから」
              (中略)
「聞くことが大事なんです。そこで答えが出なければ、ひとつヒントを与える。そうやって答えを導き出せるのが、指導のテクニックです。
聞いていて面白いんですよ。実は彼女のことで悩んでいて、
パフォーマンスが悪いっていうのも、なかにはいるわけです。
振られたんですという情報が、他の選手から入っていたりする。
そういう選手にお前の技術は、蹴り方はなんて言っても関係ない。
その前に違うところを指導者としては観察しなければならないということでしょう」
 
これは、医者でも、コンディショニングコーチでも、心理カウンセラーでもなく、マネージャーでもないサッカーコーチの発言。どれだけ多岐にわたる知識と経験が必要なのだろうか、サッカーコーチとは。大丈夫か、コインブラさんは?